「ミッドセンチュリーモダン」と「スカンジナビアン・モダン」。
どちらも洗練されたデザインとして人気が高く、インテリア雑誌やショップでも頻繁に目にするスタイルです。
しかし、この二つのデザイン様式は、しばしば混同されたり、その違いが明確に理解されていなかったりすることも少なくありません。
本記事では、第二次世界大戦後のアメリカで花開いた「ミッドセンチュリーモダン(MCM)」と、同時期に北欧諸国で育まれた「スカンジナビアン・モダン」のデザインについて、それぞれの特徴、素材の使い方、フォルム、そして根底にある思想などを比較しながら、その魅力と違いを深く掘り下げていきます。

どちらのスタイルも知ることで、あなたのインテリア選びがより豊かで楽しいものになるはずです。
ミッドセンチュリーモダン(アメリカン):未来への楽観と大胆な革新
ミッドセンチュリーモダン(Mid-Century Modern、以下MCM)は、主に1940年代半ばから1960年代半ばにかけて、第二次世界大戦後のアメリカ合衆国で生まれたデザインムーブメントです。
この時代のアメリカは、戦争の勝利と経済的な繁栄を背景に、科学技術の進歩と未来への大きな期待に満ち溢れていました。
時代背景と思想


楽観主義と未来志向


第二次世界大戦後のアメリカの経済成長と、それに伴う中産階級の台頭が背景にあります。
戦後の好景気は、人々に明るい未来を予感させました。
宇宙開発競争が始まり、科学技術が生活を豊かにするという信念が社会全体に浸透していました。
MCMのデザインには、こうした時代の空気感が色濃く反映され、未来的で遊び心のあるフォルムや、新しい素材への挑戦が見られます。



イームズ夫妻の「最高の品質のものを、より多くの人に」という理念は、この思想を端的に表していますね。
技術革新と大量生産


戦時中に培われたプライウッド(成型合板)やプラスチック、グラスファイバーといった新素材の加工技術が、家具デザインにも応用されるようになりました。



これにより、曲線的で彫刻的なフォルムの家具が、比較的安価に大量生産されることが可能になり、一般家庭にも広く普及しました。
機能性と表現性の融合


「形態は機能に従う(Form follows function)」というモダニズムの原則を踏襲しつつも、MCMのデザインは機能一辺倒ではなく、住まう人の個性や楽しさを表現することも重視されました。



実用的でありながら、見ていてワクワクするようなデザインが特徴です。
デザインの特徴


素材
プライウッド、プラスチック(FRP、アクリルなど)、グラスファイバー、金属(スチール、アルミニウム)、ビニール、ガラスなど、当時の新素材が積極的に活用されました。



木材も使用されますが、ウォールナットのような濃い色合いのものが好まれました。
フォルム
彫刻的で有機的な曲線や、幾何学的なパターン、アシンメトリー(非対称)なデザインが多用されました。
宇宙や原子をモチーフにしたような「アトミックエイジ」と呼ばれるデザインも人気を博しました。



脚付きの家具(テーパードレッグやメタルレッグ)もMCMを象徴するディテールです。
色彩
アースカラーをベースにしつつも、マスタードイエロー、アボカドグリーン、オレンジ、ターコイズブルーといった鮮やかで大胆なアクセントカラーが用いられました。
コントラストの強い配色も特徴的です。
モチーフ
星、太陽、ブーメラン、アメーバ、キドニー(腎臓)型など、未来的で抽象的なモチーフが好まれました。
代表的なデザイナーと作品
チャールズ&レイ・イームズ(Charles and Ray Eames)


プライウッド製のラウンジチェア「LCW」やシェルチェア、ラウンジチェア&オットマンなど、数々のアイコニックな家具を生み出しました。
素材の可能性を追求し、機能性と遊び心を両立させたデザインはMCMの象徴です。
(イームズ夫妻については、関連記事「デザイン界の巨匠!チャールズ&レイ・イームズの世界:その功績と代表作」もご参照ください。)


ジョージ・ネルソン(George Nelson)


ボールクロック、マシュマロソファ、プラットフォームベンチなど、ユーモラスで独創的なデザインで知られます。
ハーマンミラー社のデザインディレクターとしても活躍しました。
エーロ・サーリネン(Eero Saarinen)


チューリップチェアやウームチェアなど、彫刻的で流れるようなフォルムの家具をデザインしました。
一貫した有機的なラインは、まさに「未来のデザイン」を感じさせます。
ハリー・ベルトイア(Harry Bertoia)


ダイヤモンドチェアに代表される、金属ワイヤーを溶接して作られた軽やかで彫刻的な椅子が有名です。
MCMは、戦後のアメリカのダイナミズムと楽観主義を体現した、個性的でエネルギッシュなデザインスタイルと言えるでしょう。
スカンジナビアン・モダン:自然との調和と普遍的な美しさ
一方、スカンジナビアン・モダンは、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドといった北欧諸国で、MCMとほぼ同時期の1930年代から1960年代にかけて発展したデザインスタイルです。
時代背景と思想


自然との共生と厳しい気候


北欧の長く厳しい冬は、室内で過ごす時間を大切にする文化を育みました。
そのため、家具や照明には、心地よさや温かみ、そして機能性が求められました。
また、豊かな自然に囲まれた環境は、デザインにも大きな影響を与え、天然素材への愛着や自然からインスピレーションを得たフォルムに繋がっています。
ヒューマニズムとクラフトマンシップ


社会福祉制度が充実し、人間中心の考え方が根付いている北欧では、デザインもまた使う人に寄り添うヒューマニスティックなアプローチが重視されました。



伝統的な手仕事(クラフトマンシップ)を尊重し、高品質で長く使えるものづくりを目指す精神が息づいています。
民主的なデザイン


「美しいものをすべての人へ」という考えのもと、機能的で質の高いデザインを、多くの人々が手に取りやすい価格で提供しようとする試みがなされました。
「ヒュッゲ(デンマーク語で心地よさ)」や「ラゴム(スウェーデン語で適度さ)」といった、日々の暮らしの中で感じるささやかな幸せや心地よさを重視する文化がデザインに反映されています。



自然との調和、人間らしい温かみ、そしてサステナビリティ(持続可能性)への配慮が思想の核にあります。
デザインの特徴


素材
オーク、ビーチ、バーチ、チーク、パインといった明るい色調の木材がふんだんに使用されます。
特にデンマーク家具では、木材の美しい木目や質感を活かしたデザインが特徴です。
その他、ウール、リネン、コットン、レザーといった天然素材のファブリックも多用されます。
フォルム
シンプルでミニマルながらも、どこか有機的で温かみのある曲線が特徴です。
華美な装飾は避けられ、機能から導き出された無駄のないフォルムが追求されました。



人間工学に基づいた設計で、座り心地や使いやすさも重視されています。
色彩
白やベージュ、ライトグレーを基調とした明るくナチュラルなカラーパレットが中心です。
アクセントとして、ペールトーンのブルーやグリーン、イエローなどが穏やかに用いられます。



木材の自然な色合いも、空間に温もりを与えます。
光の取り入れ方
日照時間の短い北欧では、室内に光を効果的に取り入れるための工夫が随所に見られます。
大きな窓や、光を柔らかく反射させる明るい内装、そして機能的で美しい照明デザインが発達しました。
代表的なデザイナーと作品
ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner)- デンマーク


「Yチェア(CH24)」、「ザ・チェア(JH501/PP501)」など、生涯で500種類以上の椅子をデザインしたと言われる「椅子の巨匠」。
木材の特性を最大限に活かした、美しさと機能性を兼ね備えたデザインが特徴です。
アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)- デンマーク:


「セブンチェア」、「エッグチェア」、「スワンチェア」など、建築から家具、カトラリーまで幅広く手掛けました。
機能主義に基づきながらも、彫刻的な美しさを持つデザインが国際的に評価されています。
フィン・ユール(Finn Juhl) – デンマーク


「No.45チェア」、「ペリカンチェア」など、彫刻的で有機的なフォルムと、フレームと座面が分離したような独特のデザインで知られます。
「家具の彫刻家」とも呼ばれました。
ボーエ・モーエンセン(Børge Mogensen) – デンマーク


「J39 シェーカーチェア」や「スパニッシュチェア」など、庶民のためのシンプルで実用的な家具を数多くデザインしました。
デンマーク近代家具の父とも称されます。
アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto) – フィンランド


「スツール60」や「パイミオチェア」など、フィンランドの自然からインスピレーションを得た、有機的な曲線と積層合板(ベントウッド)技術を駆使したデザインで知られる建築家・デザイナーです。
スカンジナビアン・モダンは、自然素材の温もりと機能的な美しさ、そして使う人への優しさが融合した、普遍的で飽きのこないデザインスタイルと言えるでしょう。
ミッドセンチュリーモダンとスカンジナビアン・モダンの比較


これまで見てきたように、MCMとスカンジナビアン・モダンは、同じ「モダンデザイン」という大きな潮流の中にありながら、その背景や特徴において明確な違いがあります。
ここでは、いくつかのポイントで両者を比較してみましょう。
比較ポイント | ミッドセンチュリーモダン(アメリカン) | スカンジナビアン・モダン(北欧) |
時代背景・思想 | 戦後の好景気、技術革新、未来志向、楽観主義、大量生産 | 自然との共生、厳しい気候、ヒューマニズム、クラフトマンシップ、民主的なデザイン |
主な素材 | プライウッド、プラスチック、グラスファイバー、金属、濃い色の木材(ウォールナットなど) | 明るい色の木材(オーク、ビーチ、バーチ、チークなど)、天然ファブリック |
フォルム | 彫刻的、未来的、幾何学的、大胆、アシンメトリー、脚付きの家具 | 有機的、シンプル、流線形、人間工学的、ミニマル、無駄のないフォルム |
色彩 | アースカラー+鮮やかなアクセントカラー(マスタード、オレンジなど)、コントラスト | 白やナチュラルカラー基調+ペールトーンのアクセント、明るく柔らかな色合い |
空間の印象 | ダイナミック、個性的、エネルギッシュ、遊び心がある | 温かみがある、落ち着いている、居心地が良い、機能的で美しい |
デザインの源泉 | 科学技術、宇宙、新しいライフスタイル | 自然、伝統的な手仕事、人間中心の考え方 |
素材の使い方
MCMが当時の最新技術を駆使した人工素材や加工木材を積極的に採用したのに対し、スカンジナビアン・モダンはあくまで天然の木材を中心とし、その素材感を活かすことを重視しました。



この違いは、それぞれのデザインが生まれた土地の産業構造や自然観を反映していると言えるでしょう。
フォルム
MCMのフォルムは、時に大胆で奇抜、見る者に強いインパクトを与えます。
一方、スカンジナビアン・モダンのフォルムは、シンプルで抑制が効いていながらも、どこか有機的で体に馴染むような優しさを持っています。
これは、MCMが「未来」や「革新」を象徴するようなデザインを目指したのに対し、スカンジナビアン・モダンが「普遍性」や「心地よさ」を追求した結果と言えます。
思想
MCMの根底には、新しい技術や素材でより良い未来を築こうとするアメリカ的な楽観主義と開拓者精神があります。
対してスカンジナビアン・モダンは、厳しい自然環境の中で育まれた、人間や自然への深い洞察と、手仕事の価値を尊ぶ精神に基づいています。
共通する「モダン」の精神


ミッドセンチュリーモダンと北欧デザインは、20世紀半ばに花開いた異なるデザイン潮流ですが、共通して「モダン」の精神が根底に流れています。
この「モダン」の精神は、主に以下の3つの要素に集約されます。
機能主義
「形は機能に従う」というモダニズムの理念が強く反映されています。
装飾を排し、製品が持つ本来の目的や使いやすさを追求することで、より良い生活環境を提供しようとする考え方です。
ミッドセンチュリーモダン
新しい素材(成形合板、FRPなど)や技術を積極的に取り入れ、椅子の座り心地や収納家具の使い勝手といった実用性を徹底的に追求しました。
北欧デザイン
厳しい自然環境の中で、生活をより快適にするための合理性と実用性が重視されました。
例えば、使いやすく、手入れがしやすい家具や、光を効率的に取り込む照明などが多く見られます。
シンプルさの追求
無駄を省き、本質的な美しさを引き出すミニマリズムの思想が共通しています。複雑な装飾をなくし、線や形、素材そのものの美しさを際立たせることで、普遍的なデザインを目指しました。
ミッドセンチュリーモダン
大胆な曲線や幾何学的なフォルムを用いながらも、機能的な要件から導き出されたシンプルな形が特徴です。
素材の特性を活かした、洗練されたミニマルなデザインが多く見られます。
北欧デザイン
自然素材の温かみを活かしつつ、優しく有機的なラインとシンプルな構造が特徴です。
過剰な装飾を排し、素材そのものの美しさや手触りを大切にする、質素で洗練されたシンプルさが追求されました。
新しいライフスタイルへの対応
第二次世界大戦後の社会の変化、特に核家族化や都市化の進展に対応し、新しい住空間や生活様式にフィットするデザインを提案しました。
ミッドセンチュリーモダン
中流階級の台頭と大量生産技術の発展により、より多くの人々が質の高いデザインを生活に取り入れられるよう、手頃な価格で多様なニーズに応える家具やプロダクトが生まれました。
オープンな間取りやコンパクトな住まいにも合う、機能的でスタイリッシュなデザインが重視されました。
北欧デザイン
限られた空間を有効活用し、人間らしい温かさと心地よさ(ヒュッゲ)を日々の暮らしにもたらすデザインが求められました。
機能的でありながらも、安らぎを与えるような、暮らしに寄り添うデザインが特徴です。
このように、両者はそれぞれ異なる文化背景とアプローチを持ちながらも、機能性、シンプルさ、そして新しい時代の生活様式への適応という「モダン」の共通点があります。
そのため両者は「モダンデザイン」という大きな括りの中で語られ、また、時に混同されることもあるのかもしれません。
どちらのスタイルを選ぶ?あるいは融合させる?


ミッドセンチュリーモダンとスカンジナビアン・モダン、それぞれの魅力と違いをご理解いただけたでしょうか。
もしあなたが、未来的で遊び心のある、個性的な空間を好むのであれば、MCMの家具や小物が良いアクセントになるでしょう。
鮮やかな色彩や大胆なフォルムは、空間に活気とダイナミズムをもたらしてくれます。
一方で、木の温もりを感じる、明るく落ち着いた居心地の良い空間を求めるのであれば、スカンジナビアン・モダンがぴったりです。
シンプルで飽きのこないデザインは、長く愛用でき、どんなライフスタイルにも馴染みやすいでしょう。
もちろん、両方のスタイルを上手にミックスするという楽しみ方もあります。
例えば、スカンジナビアン・モダンのシンプルな空間に、MCMのアイコニックなラウンジチェアや照明をアクセントとして取り入れることで、互いの魅力を引き立て合う、洗練されたインテリアを作り出すことも可能です。
その際は、色調や素材感を意識して、調和を保つことがポイントです。
まとめ


ミッドセンチュリーモダン(アメリカン)とスカンジナビアン・モダンは、同じ20世紀半ばに生まれたモダンデザインでありながら、その生まれた土地の歴史、文化、自然環境、そして人々の価値観を反映し、それぞれ独自のデザイン言語を発展させてきました。
MCMは、技術革新と未来への希望を背景にした大胆で革新的なデザイン。
スカンジナビアン・モダンは、自然との調和と人間中心の思想から生まれた、温かく普遍的なデザイン。
どちらのスタイルも、現代の私たちの暮らしに豊かさとインスピレーションを与えてくれる素晴らしいデザインです。
それぞれの違いを理解し、ご自身の好みやライフスタイルに合ったデザインを選ぶことで、より愛着の湧く、心地よい空間づくりを楽しんでいただければ幸いです。
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